国会議員へのメール文面
初めまして。
○○○○先生におかれましては、商業用レコードの日本国内への輸入を禁止する権利をレコード製作者に付与する著作権改正法案について、既にお聞き及びかと存じます。「政府は4日、海外で生産・販売された日本の音楽CDを逆輸入し、国内で販売することを禁じるなどの著作権法改正案を内定した。5日の閣議で正式決定する」と報道されています。
もしかしたら先生は、この法案が「邦楽CDの国内還流防止」だけではなく、「洋楽CDの並行輸入防止」も可能な法律案である、ということに既にお気付きであり、何らかのお考えをお持ちかもしれません。しかしながら、一国民としてこの法案について強く反対し、日本の音楽文化に与える悪影響について深く憂慮していることをお伝えしておかなくてはと感じ、メールさせていただいた次第です。
法案の提出に先立ち、平成15年12月に2週間の期間をもって、文化庁が一般から意見の募集を行いました。
この時、私が意見として送ったものが以下に記載しました文面、「「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に関する意見」です。これは昨年末、文化庁が2週間の期間で一般公募したものです。先生にお送りするのに際して、若干の加筆訂正を行っていますが、要旨は変わっていません。
私以外にも反対する一般国民、有識者は数多く、異例の300通近い反対意見が集まりました。しかし文化庁の文化審議会著作権分科会で、これらの意見が反映されることはありませんでした。報告書(案)はほとんど書き換えられることなく可決され、私たちの反対意見は反映されないままの法案が提出されました。このことは、文部科学省のサイトで公開されている議事録の要約から読み取ることが出来ます。
ですから、先生に私の意見を読んでいただきたいのです。
多くの音楽を愛する国民が、この法案に大きな不安を感じ、暗胆たる気持でいます。
「文化審議会著作権分科会報告書(案)」に関する意見
2003年12月文化審議会報告書(案)に関して、第1章法制問題小委員会の、「検討の結果」に記載されている、『「日本販売禁止レコード」の還流防止措置』に関しての意見です。
私は、『「日本販売禁止レコード」の還流防止措置』に関して、法制化に反対致します。
根拠)
1.逆輸入盤ではない輸入盤の輸入を制限する根拠となり得る
音楽業界の代表は、逆輸入盤ではない輸入盤に付いては輸入制限しないと言っているようだが、その発言の根拠は極めて信頼性に乏しい。 一旦、「権利」として法制化された場合、近い将来、法規に沿って輸入を制限する根拠となり得ると考える。 実際にカナダやオーストラリアでは、書籍に関してそういった輸入制限が行われている。
(文化庁の分科会で、事務局が「逆輸入盤ではない輸入盤」の輸入規制が行われる可能性について認める発言をしています。)
消費者は、規格外の不良品である一部の国内盤を購入せず、工業規格に沿った海外CD(米国の製品が多い)を購入することで自己防衛している。 音楽業界は、不良品の販売を伸ばすため、もしくは独占販売の強化のために、これら輸入盤の輸入を制限する可能性が高いと考える。 将来、輸入盤の制限がなされた場合、被害を受けるのは音楽を買っている消費者である。 聴きたくても聴けないという状況に至るからである。
2.逆輸入盤が国内盤の売り上げ低下に影響するという根拠がない
逆輸入盤が国内の音楽コンテンツの売り上げ低下に影響している、あるいは将来的に影響するというが、根拠がない。
賛成意見の中で「還流の障壁となる言語の問題がない」とのことだが、パッケージの記載や歌詞は外国語で書かれているはずで、これは言語の問題である。 また言語の問題とは関係なく、音楽ファンはより音楽家を身近に感じられる媒体を購入するものであり、逆輸入盤であるということ自体が還流の障壁である。 実際、国内ミュージシャンのファンの多くは国内盤を購入し、逆輸入盤はほとんど売れていない印象を私は持っている。 私の周囲には逆輸入盤を購入し聴いている知人はいない。皆、国内盤を買っている。
逆輸入盤を購入しているのは、むしろ今まで高価な国内盤を買う資金がなくコピーなどでがまんしていた一部のファン層であると考えられる。 こうしたファン層にとって魅力的な製品であれば、むしろ総体としての売り上げは改善し得る。
(日本の国内盤は再販制度によって価格が維持されており、競争原理から逃れています。)
3.海賊盤の問題とは関係がなく売り上げにも貢献しない
逆輸入盤は海賊盤ではなく、法制化されれば海外から見れば輸出の障壁になるものであり、国際的な問題となる。「65ヶ国において「みなし侵害」「国内・域内消尽の頒布権」「輸入権」など著作権法により何らかの方法で還流を防止することが可能となっている」とのことだが、実際に障壁となるような運用をしている国はないのである。
障壁の影響を受けるのは「正規にリリースされた製品」であり、所謂、著作権法規に違反して販売される海賊盤の問題とは関係がない。 国内盤より安いからという理由で、海賊盤と同等の扱いをすることは問題がある。 音楽業界の利益を保護する以外に意味がない法制化であり、しかも保護出来るという根拠もない。 むしろ、もし逆輸入盤のみならず輸入盤の輸入禁止につながるようなことがあれば音楽文化の衰退の原因となり得ると考える。
また「アジア諸国で正規品が適正価格で流通することにより、海賊版対策にもつながる」という意見は、還流防止措置とは関係がないと思われる。
4.企業倫理にもとる業界の利益を、国が保護する必要はない
著作権法規上は、複製権を持つメーカーが音楽を不良媒体に収録し、販売を独占する権利が認められているようである。
上記1.に関連するが、日本の音楽業界の一部は、音楽CDの工業規格を意図的に外した再生保証もない製品を「再生の不具合に付いては関知しない」として販売している。この製品はコピーコントロールディスクと呼ばれ、実際に再生できないことや再生機器に不具合を生じることも多い。
たとえ法的には認められた権利だとしても、一般的な倫理に鑑みれば、製造販売に携わる業界として前代未聞の所行であり、その主張や発言は全く信用できないと感じている。 なお、私が見たことがある逆輸入盤はコピーコントロールディスクであり、国内の消費者が自己防衛のために逆輸入盤を購入することはない。 このような製品が多く輸出されていることは、近い将来、海外の音楽ファンの日本国の心証を著しく傷つけることになるのではと憂慮するが、これは今回の件とは関係がないことである。
このような業界を国が保護する法律を制定することは、音楽ファンである国民の一人として納得できない。
以上が、私が12月に文化庁に送った意見です。
上記の意見は、現在提出されている法案に対する意見でもあり、今もこの考えは変わっておりません。 上記以外にも、法案で規定されている還流防止自体が、WTOに提訴されたら必ず大きな批判を受けるとも言われています。自由貿易の思想、価格競争原理を否定するものです。
日本の音楽ファンは、再販制度のもとで諸外国よりも著しく高価なCDを購入しています。
今回の法案が可決された場合、唯一、価格競争原理が働いていると考えられる欧米からの輸入盤の輸入が禁止され、日本の音楽市場は実質、日本企業にとって「著作権で保護された」独占市場になると考えられます。そうなった場合、日本市場はコピーコントロールディスクに代表される不良、かつ高価な商品によって埋め尽くされ、長期的に、あるいは短期的にも、音楽文化の著しい衰退、弱体化を招くと考えております。
不良製品の販売により、既に心ある音楽ファンの音楽離れの徴候が散見されています。
より将来的には、日本の文化全体が「著作権保護」という名の「囲い込み」により、閉塞することに繋がる可能性が高いと考えます。文化立国を挙げる施策がこれでは、日本国の文化全体が国政によって世界に遅れをとることに繋がります。
法案が提出された今、この法の改悪を止められるのは国会だけであると言われています。このようなメールを送らせていただいたのは、私のような考えを持つ者は私一人ではないこと、多くの音楽を本当に愛する国民が、今回の法案の行方について真剣に考え憂慮しているということをお伝えしたかったためです。
法案が作成される前に全国から集まった300近い反対意見は、全く法案に反映されていません。このような法案が、国民の代表者たる国会議員の方々によって「特定業界が保護される権利」として立法化されるかもしれないということに、曰く言い難い不条理を感じています。
このような声に、耳を傾けていただければと切に願っております。